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​大坪ユウシ「SONG FOR KILLING TIME」Release interview

the giraffesのニュー・アルバム『SONG FOR KILLING TIME』が完成した。

 

前作『ALARM THE GHOST TOWN』リリースのときにも、フロントマン・大坪ユウシ(vo,g)さんにインタビューの機会をいただいた。大坪さんのバンド結成に至る経緯や、僕がthe giraffesと出会えたいきさつや、その他たくさんのコメントは、同サイトに掲載いただいているのでそちらをご覧いただき(https://wearethegiraffes.wixsite.com/website/about-4)、今回は大きな変化を遂げた彼らの新作についてとことん語っていただいたインタビューをお届けする。大坪さんの憧れの人、the pillowsの山中さわおさんがthe giraffes 3作目となるプロデュースを務めた本作の魅力を深堀りしてみた。このアルバムを味わう際に、制作の背景を思い浮かべるうえでこのインタビューがお役に立てたら嬉しい。

 

取材・文/浅野保志(ぴあ)

 

 

――本作をリリースするにあたり、まずは時系列を追って、気持ち的な部分も含めてお話いただけますか。

 

前回(アルバム『ALARM THE GHOST TOWN』)を出したときから、作詞、作曲、アレンジ全部に対して、自分のクオリティーや満足感とは別に、自分が好きで憧れるようなバンドと比較してみたときのクオリティーをすごい考えちゃって。もちろん作品は気に入っているし、次はもっと良いものを作ろうとして、実はこの期間にめちゃくちゃ曲を作りまくったんですよ、がむしゃらに。今回収録された6曲は、その中でも相当最近できた楽曲です。でもバンドで試して演奏できる曲はこれ以外にもかなりあって。5~6曲のアルバムを出そうと決めていたので、最初は“曲が揃ったら出そう”ぐらいに考えてたんですけど、本当にこれでいいのか、ずっと悩みすぎて出せなかったんです。すごい良い曲ができたと思っても、出そうってなるまで踏ん切りがつかなかったのでとても悩んだ。そこで、いったん理想になりたいとか、憧れたものになろうというのを辞めて、自分ってどんな人間だったっけ? と思い返したんですね。そうしたら自分ってそんなに頑張る、気張るタイプじゃない、もっと緩かったり、のんびりしてる人間だなと思って、自分としてはあんまり書かない人間が主役の歌詞を書いてみた。そしたらありのままの自分を書けたなって思えて。じゃあ今回はそんな曲をやろうと選んだのがこの6曲だったのです。

 

 

――聴かせてもらって僕の印象は、これまでの作品と比べて、根本的なところで、作る前提が変わったんだろうなという変化を感じました。特に歌詞にその変化が如実に出ていると思ったのはそういう経緯があったのですね。理想の自分を描くのは辞めようという考えに至ったきっかけは何かあったのですか。

すごい些細な話なんですけど、最近流行ってる「MBTI診断」という性格検査、心理テストがあって。自分はどういう人間なんだというタイプを測るものなんですけど、それで自分を診断してみたんです。16タイプに分類される性格診断で、自分はそのタイプのひとつ「『INTP型(論理学者)』の性格」という分類だった。それでアルバムの6曲目は「INTP」というタイトルにしたんです。

――歌詞に出てくる“Do I need to pay? Yeah yeah!”というフレーズからタイトルをつけたのかと思ったら、そうではないんですね。

 

あんまりMBTI診断を如実に出したくなかったので。わかる人はこれ見て“あれかな?”って思うけど、知らない人には、最後の“Do I need to pay? Yeah yeah!”の頭文字にちなんだ感じにしようって。

 

――なるほど。背景を知らない人には、この歌詞の頭文字をタイトルにしたぐらいの理解でも構わない?

 

そうですね。自分にとってのきっかけにはなったけど、それを重く考えてる訳じゃないんで。診断で出た自分の結果が、自分の想像する理想の人間とかけ離れていて。結構“強気で意欲的でみんなを引っ張っていく”みたいなタイプになりたいと思ったのです。だけど出た結果は、“人とつるむのが苦手で、ずっと研究室の地下の奥で研究している論理学者”というタイプで。自分ってそういうタイプなのか? と、出た結果に向き合って、これを面白がった方が人生楽しそうだなと思ったんです。そういえば自分はそういう面もあると。怠け者の自分とか、冷めた自分、世の中の物事に対して情熱的になれない自分を面白く書いてみようと思った。だから「Song for killing time」(3曲目)=“退屈しのぎの歌“とか、ちょっと冷めてる雰囲気を書けた。そしたら、何かと比べることが急に無くなって、等身大の自分を出すことがあんまり怖くなくなったんです。

 

――曲を作るクリエイターとして、それはすごく良い視点だと思いました。これまでのthe giraffesを聴いてきたファン、あるいは大坪さんに“あるイメージ”を持っている人と比較して、今回の作品を聴いた人たちがもっと自分に寄せて聴ける作品にスケールアップした感じがしました。

 

リスナーが“これは自分だけの曲だ”と胸を張って聴けるような曲を作りたいと思って。自分にとっても好きな曲っていうのは、あたかも自分のために歌ってくれてるかのようなものだったりするので、そういうものになったらいいな、したいなって意識して書きました。

 

――面白いテーマなので深堀りをさせてもらうと、診断で大坪さんが“こうありたかった”と描いていた像と、実際に出てきた結果に大きな差があったということを、でもこの際だから面白がっちゃったほうがいいと思って作品に臨んだのが素晴らしいと思います。でも結果が出た直後の受けとめがどうだったのかはすごく気になる。人によってはショックとか、“そうじゃなかったのに…”みたいなネガティブな気持ちが生まれかねないなと想像できるけど。

 

意外とショックでもなくて、何となく自分の中で“そういう自分もいるよな”ぐらい。常にもうひとりの自分が、ずっと後ろの方で冷めた自分がいるのはわかってたので“そんな感じか”と思った。でも“俺、本当にそうなのかな?”ってどんどん気になって何回も診断をやり直したり、その診断がどういう仕組みなのか? とか、そもそも心理テストって眉唾モノだし…とか、いろんな疑問と興味がめちゃくちゃ湧いて、まさにそれって論理学者の特徴だし(笑)。とにかく興味を持っちゃって、もっともっと調べて、自分の中でそれを納得できるかどうかを突き詰めたいと思いました。だからショックじゃなかったですね。あとはシンプルに、やっぱり曲のネタになるなってすぐに思ったから、ある意味、何か救われたのかもしれない。“こうなるべき”という呪縛も無くなったし、逆に出た結果に合う人間になろうとももちろん思ってないし、そこまで自分のなるべき姿を描き過ぎなくてもいいやと思った。なるようになると。

 

――曲を聴いた僕はその変化をすごく感じたのですが、一番身近でレコーディングしたメンバーにそこを指摘されたり、何かやりとりはありましたか。

 

メンバーからは、これまで“肩に力が入ってる”と言われ続けてて。たけど変わってからは、“自然体でいいね”って。サポートのカワイヒロカズからは、基本、常に見守られてる、見守りベースなので(笑)。大坪が“何をやりたいか”っていう“それ”に楽しいから付き合うというスタンスでいてくれてるから、“肩の力抜けたね、いいんじゃない”という感じでした。

 

――今回、そのスタンスの変化は歌詞だけでなく作曲にも影響が出ているように感じました。

 

メロディーを作るにあたって、それこそ自分の好きなバンドのメロディーの音階を辿って、どういう特徴があるのだろう? とか、理屈的に考えまくって。だけど、結局それをしちゃうと自分の曲を気に入るのが下手になる。あえて言い方を“下手になる”と言うんですけど。好きになりにくくなっちゃったのでそれも辞めて、本当に自分が心地好いっていう感じ、頭じゃなくて心で気持ち良いって感じるふうに作れたなって。だから影響はあるのかな。

 

――この6曲、非常にバリエーションが拡がった気がしました。今回、3回目のプロデュースをさわおさんが引き受けてくれたのは、どのような経緯で実現したのですか。

 

もちろん、こちらからお願いしました。すごい厳かに“やってくれますか”みたいな感じでお願いしたら、“いいよ”って普通な感じのスタンスでやってくれました。

 

――ずいぶんたくさん曲を作って、最近の6曲に絞り込んで、という経緯を聞きましたが、リリースを決めてからお願いしたのですか。

 

そうですね。完全に“この6曲でやる”と決めて、アレンジもでき上がって、いつ“持ってきて”と言われてもいい状態にしてからお願いしてみようって。

 

――最初に曲を聴いたさわおさんはどんな反応でしたか。

 

スタジオで初めて聴いてもらったんです。ブログにも書いてくれたんですけど、“別に(修正すべきことは)特にない”みたいに言ってくれて。“でも一応プロデューサーだから”って、 “それでもいいけど、こっちはどう?”と提案するみたいに言って下さったりして、自分がもっと気に入るアイデアもくれました。1曲目(「Destruction party」)を初めて聴いてもらってひと言めが、“うん、俺は好きだよ”みたいな。“俺はね”って(笑)。歌詞に関しても“「確信」を言うのとちょっと「遠まわし」に言う、わかりにくさの距離感が良い”みたいな言い方をしてくれたりして。世の中に対してリスナーへの承認欲求もあるけど、さわおさんは憧れの人だから、“曲を作っている、活動していることをみせたい”という承認欲求はやっぱり正直あるから、早くプロデュースをお願いしたかった。

 

――早くお願いしたいという気持ちもすごくわかるけど、一番大切なのはクオリティーだから難しいですよね。曲が誕生してアレンジしていう過程はどのように進めていくのですか。

 

基本的に曲作りはメロディーが先で、しっかりメロディーが出来たものに詞を乗せるっていう順番です。曲を作るときの感覚は適当で緩くて。最初のきっかけはギター持たないで鼻歌で浮かんできて、頭の中で永遠に暇なときとかメロディーを流し続けたりして、そこからワンフレーズ生まれたらそこから世界観を拡げるんですけど、「Destruction party」は珍しくギター・リフが先に出来て。

 

――今回のアルバムは、全体的にAメロあってBメロあってサビあって、そのあとの展開というかCメロ的なフレーズにこだわりを感じました。

 

僕、昔から“俺はBメロ、Cメロが得意だ”って、半分ジョークでよく言ってたんです。だからもちろんサビがあって成り立つんだけど、BとかCが良い曲が好きなんだと思う。

 

――今回、プロモーションビデオも撮影された3曲目(「Song for killing time」)は、シンセによるホーンが加わったアレンジが印象的でした。あれは自分たちのアイデアですか。

 

元々この曲は全く別のアレンジで持っていったんです。実はバラードだった。それを“素晴らしい”と言って下さって、そのアレンジでレコーディングをやってたんですよ。リズム隊も録り終わったあたりで、この曲が一番いい。だけどバラードだからプロモーションビデオは別の曲にしようと思ってたんですよね。正直な話、ビデオを録るにも5分は長くて大変だから。そしたらさわおさんが“じゃあ試しに、ちょっとキャッチ―で早いアレンジをやってみたら?”と言ってくれて。最初は暗いイメージで、歌詞そのままのまさに世界が終わる日を待つ孤独な雰囲気だったんです。3人で新しいアレンジを合わせて、さわおさんにアドバイスもらいながらやったら、意外とすぐパッとできちゃって。それで今のアレンジになった。“じゃあ、とことんまでやっちゃおうぜ”ということになって、さわおさんのアイデアでホーンも入れて。しかもリズム隊の音源を取って置いてくれて、“バラード・バージョンもどこかで出そうよ、そっちも素晴らしいから”って。それもどこかで出せるんだったら、もう乗っかっちゃおうみたいな(笑)。

 

――僕が個人的に一番素晴らしいなと思ったのは5曲目(「I hate「Be ambitious!」」)でした。

 

本当ですか。嬉しいです。

 

――今まで大坪さんが作ってきたタイプの曲ではないし、描こうとしている歌詞もちょっと違うし。この曲が生まれた経緯を教えていただけますか。

 

やっぱり“こうなりたい”という理想があったから動き出した人間なんですよ。元々は“別にこのまま適当にのんびり過ごして人生が終わってもいいや”ぐらいに考えてた。それが、こういうロックミュージシャンになりたいという理想があったから動けるようになったタイプなので、常に理想と自分のギャップについて考えるんですよ。やっぱりカッコいい存在になるためにはこうすべきだと思って。でも今回は逆に、これはいらないなと思った自分の中にあるものをもう一回引っ張り出してみた。自分の好きな狭い世界でずっと幸せでいるっていう、悪く言えば怠惰な自分、良く言えばそれで満足できる自分を、今までは閉じ込めてたんですけど、ちょっと引っ張り出してみようと思って。大きな夢とか、何かを成し遂げるというのに僕はあんまり興味がなくて。だから「Be ambitious!」=大志を抱け、を俺は好きじゃないっていう曲を作ろうと思ったんです。

 

――この曲が素敵だなと思ったのは、やっぱり“大志を抱け”は、世の中の毎日でさんざん周りから(親からも学校からも)言われてることで。音楽に、それ以外の(癒やしなのか、情熱なのかわからないけど)“求めるのはそこじゃない”人たちが多い中で、それをタイトルにしたことはすごく大事だなぁと。

 

自分は、世界のそういう人たちを、より多くの人をあっと言わせたいっていうよりは、自分の狭い世界を好きでいてくれる1人を見つけたいっていう方なのかなって。

 

――前回のインタビューで、北海道でバンドを武器に選んで東京に出てきた経緯は伺いましたが、これから自分と自分のバンドをどのようにしていきたいというビジョンがあれば教えて下さい。

 

誤解を恐れずに言うと、自分の中にある哲学を推し進めたい。こんなこと言うと何かすごい宗教っぽくて嫌われそうですけど(笑)。自分の中の、生きていくうえで、嫌だなって思ったことや納得いかないことを、歌詞とメロディーに消化して楽しくなれて生きていけているから、それを自分の哲学というのだったら、それを形にして、それに共鳴できたり救われたり、その人の力になれるのだったらそれは嬉しいし、一番自分の武器にできるのかなって思っています。

 

 

 

 

the giraffesの曲は、僕にとって出逢えた最初の頃から自分にとって必要な音楽という直感はあった。作品を重ねるうちに、ライブに足を運ぶたびに、その想いは深く強くなっていった。インタビューさせて欲しいと立候補するのも、その足跡を直接確かめられるという醍醐味を知ってしまったから。本作では一聴して大きな変化を感じた。その理由を辿ることができたら…という企みがあった。大坪さんがクリエイターとしての立ち位置を変えたことがわかって、さらにこれからの活躍が楽しみになった。

 

10月2日(水)にはリリース記念ライブ「LIVE FOR KILLING TIME」も開催される。

東京都・​下北沢BASEMENTBARで、共演には、山中さわお(弾き語り)とnoodlesが登場する。

noodlesのサポート・ドラムには楠部真也(Radio Caroline)も参加が決まった。真也さんはさわおさんソロのアルバムやツアーでも不動のメンバー。これだけ豪華な先輩アーティストたちがthe giraffesのレコ発に駆けつける。the giraffesの可能性をみんな楽しみにしている証だと思う。追いかけていきたい。これからもずっと。

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